兵庫県臨床心理士の真摯で暖かさをイメージした画像

TOP >会長メッセージ

会長メッセージ

「私は周囲の人たちの言っていることの中に私の答えを探す、 誰かが言っている正論は信じない」

兵庫県臨床心理士会 会長  羽下 大信

今年度の公認心理師の講習会も終わりに近いところまで来ました。開催する側の予想をはるかに超え、想定の倍以上、五万人あまりの受講者とか。この事態、集客を期待するイベント主催者の側にいるのなら、「嬉しい悲鳴」なる常套句が当てはまるのでしょうね(予想外に儲かっている、そのお金はどこに行くのだろう、との影の声もあります)。が、われわれ臨床心理士としては、この事態、どうなのだろうと考えてしまうところがあります。

というのも、今年1月、野島理事(公認心理師 制度対応プロジェクトチーム・代表)を招いての全体研修会での説明によると、この資格は①主として、医師の指示のもと、医療・福祉領域で仕事する人たちのためのもの(医師の指示のもとで働くわけではない臨床心理士とは、全く別資格)であり、②医療・福祉領域で既に働いている心理職の人たちを制度的に救済するためのものであるゆえ、③5年の経過措置の間では、資格試験は現任者に合格してもらうこと(単なる知識を問うものは出題しない方向)を目指している、また④巷間、言われているような、初年度に一番合格しやすい問題が作成されるなどというようなことはなく、⑤合格率が年度を経るごとに低下するとしても、それは試験一般が本来持つ傾向であり、その意味は受験者の質が年々低下していくことの反映である、とのことでした(他に、受験資格に関する説明もありましたが、ここでは省略)。

また、初年度の受講者が予想外に多く、講習内容の詰めや場所の確保など、混乱も予想されるので、⑥今年度の受講状況と問題の出題傾向を見てから、2年目に受講し、かつ、受験するのもいいのでは、との示唆もあったかと思います。

僕としては、まことに妥当かつ穏当な話の内容だったと思いました。やれやれ、これでさまざまに飛び交う噂の坩堝も少しは沈静化し、事態も収まるのかなとの期待を持っていたのですが、どうもそうではなさそうです。

相変わらず、「今年度のほうが合格しやすい」という噂は根強く、「何が何でも今年受験しなくちゃ!」の勢いは止まりそうにありません(これを書いているのは4月末です。事態が急に方向を変えないとも限りませんが)。確かに、大学に公認心理師のコースを立ち上げねばならない教員の方々は、取得を急ぐ必要もあるのでしょう。ただ、大方の教員スタッフは、実際には、カリキュラムの確定や学生の実習先の確保などの困難に忙殺されているとも伺っています。

また、「今年度に公認心理師の資格を取得してほしい」と言われている、特に医療領域の心理士の方も、少数ながらおられるのかもしれません。それでも、開き直って考えれば、公認心理師のこの資格は名称独占ですから、この資格の人がいなくても仕事は今まで廻ってきたのだし、業務独占の新設資格とは違い、何が何でも今年に、という要請ということではないはず。「この2、3年のうちには取得して」といった依頼はあり得るのでしょうが…。さらには、個人の声として、「来年、受験できるほどの気力・体力が残っているか自信がないから」とおっしゃるベテランの声も聞こえてきます。このフレイズは、もしも以下のような含意、つまり「われわれの時代は終わった。この資格の実行は次の世代に託す」という意味がその背後に控えているのなら、僕自身も同感します。

ということを考えると、この納まらない喧躁は、殆どわれわれ自身が創り出している、ということになります。そこで、この小文のタイトルです。こうしたフレイズの裏の意味は、「みんなが言うように(するように)しとかなきゃ、きっとソンするぞ」、あるいは、「流れに乗り遅れたら取り返しがつかなくなる、そうなるとエライことだゾ」、 ということになるでしょうか。つまり、遥か遠くにある正論など不確か、公式見解は当てにならない、それよりは身近にあるリアルな答えのほうを選ぶ、となるのでしょう。このスタンスは、直接性を軸に関係を結ぶクライエントとの間でなら、必要なものでしょう。あるいは、日々の生活を生きるレベルでなら、とても有効なものになるはずです。

が、タイトルに挙げたフレイズ、対人援助にかかわることを職業とする臨床心理士のグラウンドルールとして、それでいいのでしょうか?再度、味わって頂くとして、どんなもんでしょう?

このページのトップへ戻る▲