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会長メッセージ

「三たび、臨床心理士と公認心理師 −今後の動向を巡って−」

兵庫県臨床心理士会 会長  羽下 大信

この9月に公認心理師法が施行されて以降、関連の様々な状況が動き始めました。会員の多くの皆さんの関心は、公認心理師受験のための事前の講習がどんな内容になるか、それに引き続いての試験はいつか、ということになるでしょうか。ニュースレターNo.47上に公表されているように、わが県士会のアンケートによると、回答者(N=392)の75%の方が受験を考えているとのことでした。

講習会・試験とも来年に実施されることは確定しており、先日、講習会の日時が公表されました。このニュースレターが届く頃は、既に受講申し込みは終了し、試験日も発表されていることでしょう。今後の動向についても、県の臨床心理士会のホームページをチェックしてください。

今回は、ニュースレターNo.45、No.48の巻頭言で触れた以外のこと、あるいは、その後に見えてきた論点や、今後、私たちが考えておくべき課題などを記してみます。われわれが、今後、臨床心理士としての職域を、安定して確保し、また、新たに拡大していこうとするとき、それらのテーマが浮上し、解決を図らねばならなくなったり、あるいは、公認心理師との職域の重なりを調整する必要なども出てくるかもしれません。

その全ては予測できにくいものの、様々に考えを廻らせておくと、事態が動いたり、問題が発生したときに対応しやすい、という点は、われわれの日々の臨床活動での準備と同じでしょう。たとえ、その時に想像したことが、あとから見ると泡のような期待だったり、杞憂に過ぎなかったり、あるいは予想もしなかった問題が発生したとしても。

その意味で、こうした作業はわれわれ臨床心理士の個々の現実に照らして、各人の側でも練っておく必要のあることでしょう。以下のことは、そのための頭出しの文とお考えください。

さて、まず講習会の内容から見えてくること、についてです。この10月2日に発表された受験のための講習会(30時間)の内容配分を見ると、①保健医療を中心にした関連法令(7.5時間)、②同じく、関連する多領域の課題と事例検討(7.5時間)、③精神医学・医学の知識(6時間)、④心理アセスメント(3時間)、⑤心理支援(3時間)など、となっています。つまり、全30時間のうち、医療・保健領域中心の科目(①+②+③)で、計21時間になっています。

この点から素直に推測すれば、この資格は、第一に、今現在と今から、医療・保健領域で働く人のためのもの、と総括できるでしょう。(もちろん、講習の科目には福祉や教育の領域のものも含まれてはいますが、「保健医療領域」がトップに挙げられ、医療・保健が最重要という点は変りません)。

こうした点を厚労省の側から見ると、公認心理師資格を医療・保健領域に位置づけることは、きわめて当然のことでしょう。

ここで、少し歴史的な概観をしてみます。かつて、精神科病院臨床を中心としたメンバーが多数で、これまで国家資格化は人間の心の自由を奪うものとして強く反対してきた日本臨床心理学会(日本心理臨床学会ではありません)が、心理職の国家資格化を是認する方向に大転換をしました(1991)。このとき、臨床心理士はすでに誕生しており、活動を始めていました。当時の厚生省の局長は国会答弁で、医療領域での心理・福祉職の国家資格化を進めるという旨の発言をしています。

こうした流れの背景には、精神科病院での患者への暴行・死亡事件(1983年、宇都宮病院事件。裁判で加害職員複数の有罪が確定)などをきっかけに、日本の精神医療の在り方に関してかねてよりWHOから出されていた勧告もあって、以降、厚生省(当時)内では1980年代から心理・福祉職の国家資格化に関する検討会が持たれていました。当時はSTもPTも、まだ国家資格化されていませんでしたが、省内では診療補助職全ての資格化が想定されていたわけです。

一方、臨床心理士のほうも横断的・汎用的な国家資格化を目指す道が探られ始めました。しかし、職域・職種の幅の広さから資格化への見解・スタンスが分かれ、さらには、所轄官庁が複数にわたる行政上の困難があって、時間が過ぎていく中、厚労省主管のPT、STなどが次々と国家資格化されて行きました。そして、最初から検討されながらも最後まで残った二つのうちのひとつ、PSWも資格化(資格試験は1999年実施)されたことで、残るのは心理職のみとなりました。

この最後の一つに、厚労省は20年近く、その席を空けて待っていたわけです。そしてこの公認心理師資格で、医療領域での国家資格は全て埋まりました。駒は出揃いました。これから先、世界標準に向けての医事法制の大転換があるのでしょうか。いずれにしろ、そのための制度上の条件は整ったことは確かです。

なお、PSWの国家資格化の折に大学での教員配置に携わった方の言によると、その際の法案の中のPSWの単語を「公認心理師」に差し替えると、文言はほとんど重なるそうです。もしそうなら、公認心理師の厚労省的位置づけが、側面からもよりはっきりすることになります。

さて、国家資格化という位置づけによって、この職種の業務の法的根拠が得られ、今後、職域の拡大も期待できるでしょう。僕がこれまで耳にしたラブコールは、小児科領域やアルコール・薬物などのアディクション臨床の医療・保健領域の人たち*からのものです。それらは今後、どんなふうに具体化していくのでしょうか。

ここで、新たに公表された学部の養成カリキュラムを見てみます。そこには、80時間の「心理実習」がありますが、これは見学でよいとされ、また、大学院での450時間の「心理実践実習」も規定されています。そして、以前のカリキュラム(案)に盛り込まれていた、「心理実習先は医療領域が必須」、という条件は撤廃されたようで、見当たりません。(「29文科初大881号 平成29年9月15日」)。ここから可能な推測は、以前の(案)のままだと、保健医療にあまりに特化した資格と見えていましたし、挙げられた条件を満たす実習先の確保が困難な現実もあり、それゆえの改変なのではないか、ということです。なお、この点を議論したであろうワーキング・グループでの論議の過程は、現時点では、まだ公開されていないようです。

次に、医事法制と、とりわけ医療従事者に関する法(医師法、保健師・助産師・看護師法、理学・作業療法士法など)と、公認心理師法との関係について。と書きましたが、当然ながら、医事法制とその実際についての全体像を、僕個人が把握できるはずもありません。それゆえ、われわれと関連のありそうなところを、おそるおそる、論点としてみます。医事法は、いわゆる業務独占で、業務内容について明文の規定があります。それゆえ、その業務はその資格でしかできません。一方、ご存じのように、臨床心理士と同様、公認心理師も名称独占です。医事法制の中では独自なものとなりました。

医事法制では業務内容が重なることのないよう制度整備が行われ、またそれが効果するよう、常にチェックがなされているはずです。そうなると、業務独占中心の医事法制の中での公認心理師の業務のあり方が(少なくとも僕には)わからなくなります。これまでのチーム医療、あるいは多職種の連携の中での働き方は、今から創る、というのでいいのでしょうか。とりわけ、「医師の指示」に関しては、今後の交渉や合意が重要になるのでしょう。

僕的には、この資格によって、将来的には、医療に限定されない、臨床心理学的なバックボーンを持ったコミュニティ・ワーク的なスタンスがとれるような養成・訓練の上積みや、それに続く実績、他領域との合意が持てるようになるといいなと願うところです。

また、ダブル資格をもった臨床心理士が個人開業する場合、公認心理師資格が上位となり、この医事法制の規定に従うこととなります。その際の「制限」はどんなものになるのでしょうか。

現行法上、精神科では「通院精神療法」は医師が行うこととなっています。しかし、ご存じのように実際には、その大部分は心理職が担当しています。この点を医事法制上、業務の整合性を持たせるために、かつては「保・助・看法の一部を解除する」などの案があったようです。そうしたものとともに、診療報酬の改定なども加えれば、この点は描き直せるものなのでしょうか。そして、そもそも、これらのテーマは関係者間の交渉のテーブルに乗せられ得るテーマなのでしょうか。

たとえば、医事法制の内外、病院組織の外にある事業所も含めた訪問看護・訪問介護の常勤的従事者が5万人(2016年)に達しています。そこまでの山坂を越えてきた道のりを想像すると、そこにあっただろう調整や交渉過程の分量は相当なものだと思われます。

最・後発組のわれわれとしても、職域の確保を目指しての様々な活動、要望書(既に出されていますが)のみならず、ロビー活動などの働きかけをする必要があるでしょう(昨年の法案成立後あたりに打診してみたところ、そうしたアクションはなさそうでした。でも、誰かが「もう、やってるよ」と言ってくれれば、僕も安心なのですが)。

ついでながら、公認心理師資格をもたず臨床心理士資格の活動や個人開業では、基本的には医事法制の規制は受けないことになります。ただ、この場合も、「カウンセリング・心理療法」問題が完全に決着しているとは思わない方がいいのではないでしょうか。新たな事態が始まると、問題も新たに湧いてくるものなので。

これらと関連して、「ボディ・タッチング」の問題があるように思われます。われわれが心理療法と考えているものの中に、「体に触れる」(ボディ・タッチング)ことを介した技法を含むものがあります。この点が今後どのようになっていくのだろうか、という問題です。これからもわれわれが臨床心理士として職域を確保するためには、より積極的に、所轄官庁を始め、関係当事者団体と交渉をしていく必要があるでしょう(これも、「もう、やってるよ」の声がききたいところです)。

参考になると思われるのは、「按摩・マッサージ、鍼、灸師の三療、(通称、「あ・は・き」の国家資格、背景となる法律、また、その業務についての国会答弁、訴訟判決などです。われわれとは背景・歴史が全く違うものの、幾つか問い合わせなどしてみたところ、おぼろげながらわかったのは、この彼らの古いルーツを持ち、盲者独自の職域も含み、かつ、ボディ・タッチを必須とする職業も、戦後、法律が改められた後、自分たちの職域を護っていくために、医事法制で規定されている医行為との接点で、様々なやり取りや合意形成の苦労があり、また、独自資金を蓄積して施療時の事故に備え、政治とのコンタクトをしっかりと維持して来ている、ということでした。

ついでながら、こうした合意形成がなさそうにみえるのが、刺青・タトゥの領域でしょうか。新聞報道によると、先日、裁判では「刺青は医行為」との判決が出ました。もしこれが確定すれば、刺青をするときは医師のところへ、ということになります。

さらには、職種は幾分違うものの、PSWでのボディ・タッチについて従事者に尋ねたところ、世界レベルの了解では「社会正義」として支援をすることとしており、「ボディ・タッチ」云々ということにはこだわらない、というスタンスだとの答えでした。ここでハッとしたのは、対人援助には、やはり哲学ないしは思想がいるのだな、ということです。オープン・ダイアローグの実践者たちが強調しているのも、哲学・思想である。われわれは人が人にかかわるときの背骨を意識しているか、またそれを鍛えているかが問われているようです。

次は、受験資格に絡んだ論点。5年以上の経験がある臨床心理士の場合、Gパターン(講習を受ける)による受験となるはずです。このパターンは、沢山おられる産業/キャリア・カウンセラー、看護師(とりわけ、精神看護の実践・経験者。直接のデータは見当たりませんが、われわれの総数より多いのでは?)なども、規定に従って5年の経験と認められれば、このパターンでの受験が可能になるはずです。つまり、この資格は臨床心理士や多様にあるカウンセラー資格者のためだけのものではなく、医事法制下で働こうとする多くの人たちに開かれたものになっています。ちなみに、日本看護協会は、早くからこうした資格への参入に極めて積極的で、その旨の意思表示もしています。

さて、もう一つ別の、文科省という論点。この公認心理師資格が文科省との共管になっている点です。つまり、これは厚労省と同時に、文科省も所轄する国家資格です。しかし、今回策定された大学・大学院での養成カリキュラムを見ると、教育領域での科目や訓練は、その他の領域の中の小さなひとつ、という位置にあります。講習内容での配分もそれに準じていることは、先述のとおりです。

つまり、目下のところ、この資格にはスクールカウンセラーや学校心理士は、積極的・具体的には想定されていないようにみえます。となると、学校場面で活動する心理士(「チーム・学校」などの名前が浮上しています)については、今後の養成のために、大学院等で、教育領域での活動に特化したカリキュラムが必要になってくるでしょう。現任者についても各県の臨床心理士会での、システマティックな研修が必要になっていくと予想されます。

また、そのカリキュラムの内容からも、公認心理師資格が、直ちに学校で活動する際の条件に挙げられるわけではないでしょう。が、国家資格は民間資格に比べ強者であり、その点では、近い将来には、この資格が文科省でも使われるようになることでしょう(「臨床心理士会報」53号、巻頭言に、文科省の担当課長の一文があります)。

さらにもう一つ、法人化という論点。私たちが自分たちの職域を拡充し、護りつつ、安心して仕事をしていくためには、各県で組織の法人化を検討する必要もあるようです。近畿を見渡すと、京都府臨床心理士会は既に法人化されており、奈良県も来年3月に、公認心理師協会と二つを同時に立ち上げ、和歌山県も前向きな検討段階に入っています。われわれの兵庫県も法人化を検討する時期に来ていると考え、目下、そのための準備作業を進めているところです。

*松本俊彦 「心理士よ、アディクション臨床に来たれ!」 『やさしいみんなのアディクション』2016 金剛出版

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